2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌

〝シナプスのつかのま散らす火の花と きみの七十年のとしつき〟 ⚡ 〝すれ違いざま周波数一致で石化 あなたと西へ逃げれたら〟 ⚡ 〝氷雨(ひさめ)の針に傷みゆく置きざりの三輪車には ひらがなで「すず」〟 ⚡ 〝潮騒の蝉の遠音(とおね)もすたれ去り 「今」…

Door(詩)

水晶の眼の少年は角へ消えたということだ 曲がり角を曲がったところ 駅の支柱のかげにある左側のどこかの場所へ。 宙ぶらりんの愛情と 死者たちの叫びつづける地平線をあとに残した。 ✳ 画像はフリー素材です。 なんか…… また出来た(笑)最後です!ほんとに…

瞳(詩)

杉の木立ちは掠れつつ黒く荒んで のり捨てられた金属質のにぶく輝く自転車は 音符のようにぽつぽつと散らばった雪原の足あとへ 足あとのゆくえには 蕾のような血色の唇がある。 つかのま過る静止した時 一切が声を失くした測り知れない巨大な虚ろ 永遠の孤独…

空の設計(詩)

きみの生まれた大切なその時に 色褪せた記憶の顔を 願望の落書きで歪めずに打ち明けるなら おれは確かに 家で随分お酒を飲んでいたのです いつものように。 きみと初めて会ったのは きみが初めて病院の外の空気を知った日のこと きみが病院を出た日のことで…

夕顔(詩)

一つの問いを投げかけたいと願うあいてが幾人かいる お元気にしておられますかと 込み入った様々の事情から この人たちともういちど会える見込みはかなり少ないと思われ このてきびしい現実の中に おれの理性は幾つかのまちがった選択を数える それが切なく…

永遠(詩)

かわたれ時 (だがそれは何時のことだろう) 私は少しでも高いところへ行くために 〝修道院〟の物置じみた屋根裏部屋をおとずれる そこからは東が見える 砂糖黍(さとうきび)の密林と名前の知らない一本の木のある丘が見え その向こうに街と呼ばれた何かが…

座標(詩)

時たま嗅いだため息である 時たま吹いて吹き過ぎたつめたい呼吸。 雑沓の中の人と人との暗黙の了解 高架下 会話の途中ふいにあらわれる陥没した不安な場面 二人どちらとも次の言葉を探しているという状況 雨雲の下のいじけた心。 死はたぶん青みがかったにび…

サニーサイド(詩)

海と陽ざしに面した窓である。 静かに凪いだ真夏の海と 陽だまりのある窓辺があって 家具と花瓶と声はない 抜け落ちた虚ろなものがそこに立ち止まっている。 少し奥には暗がりがある そこにたたずみ ひっそりとした影がある。 清楚な人が海を見ている。 ⏳ ✳…

道すじ(詩)

いつもほのかにほの暗い匂いをさせる おれは変質者のようにそれを嗅ぐのがはなはだ好きだ いつも求めている。 女性はいつもほのかなものを立ちのぼらせている 残り香のように微かに 変質者の熱心さでそれをくんくん嗅いでいる。 それはうっすらと黒ずんだ抑…

保険機関(詩)

所詮あてがわれた運命である 君の惨めな見苦しい人生は君の結果であって選択でないから無実 サルトルなどに君の悲哀は分からない せいぜい他人様(ひとさま)のせいにしてこれまで通り醜く生きろ 地下鉄にのり遅れたのは きっと時計の針が時間を守らなかった…

メロウ(詩)

ことを終えたらいつもそのまま寝てたけど 見ていると知っていた うら哀しいあの部屋は冬にはことのほか冷えた 窖(あなぐら)のように凝(こご)って傷んだ暗がりの片隅で 互いを抱いて 互いの膚の微熱で暖を取りながら眠ったものだ すぐには眠れないのは二…

余韻(詩)

赤らむもののほのかに滲むたそがれ時の虚空(こくう)です ほそい烟(けむり)のたなびくように やわらかな風の流れに運ばれる糸がある 幾条(いくすじ)も 幾条も 風の流れのまにまに浮かび 大人しくその身をゆだね 糸の先にはちいさな蜘蛛がきっとしがみつ…

高度(詩)

硬質かつ緻密な青で 波の揺らぎも温和な顔の包容力もない 曇りない染みも傷みも一点もない爽涼そのものな青 色の温度と季節とのあいだには 別段不思議でもないごくあたりまえな齟齬(そご)がある 七月のはずである あの少年はよく七月の教室にいる。 夢に見…

こぼれたきもち(詩)

終(つい)のすみかはたぶん浮き沈みのかなたです 会いたい人は まじめにこれを考えるなら 駅改札や二度か三度の乗り換えや綿々としてとめどない眺望の連続のかなたです 実際人はあってないような悩みを悩んで生きるものである 確かなことが一つあるけど こ…

青色(詩)

夏の盛りの陽炎である 滲みの中に残響の震えをやどす情景と見え そのくせここに聴こえるものは 歩行の脚の小石のような乾いた音だけである。 それは確かに 一台の磨かれた瀟洒(しょうしゃ)なピアノ 往来の真ん中で孤独なままに自らを耐えている。 誰ひとり…

人の巣箱(詩)

街 それ自体鉄と硝子と石材とアスファルトの目論まれた建築である つねに浸透する無情に澄んだものがある つねに浸透し蔓延している 到るところに 赤信号 〝進んではいけない〟 街は人より荒んで見える 人よりも疵口(きずぐち)を隠してはないように見える …

鏡の指紋(詩)

濁流を想わすような天と地の色である。 天秤が東に振れた すなわち西が沈んだわけである 曠野(あらの)で暮らす偽預言者は若い女の魔女である 襤褸々々(ぼろぼろ)の身装(なり)をして 酸っぱい乳房と 道に迷えば真実な自分の水溜まりとを持っている。 松…

少年(詩)

地下鉄は轟音の中を進んだ 重金属のたたかい軋む何かしら深度のふかい轟音である ことさらに揺れの烈しいそこは恐らく曲線だろう 重心の傾き揺らぐ波のうねりの感覚がある うねりにあらがおうと力(りき)めばむしろちからは逆のベクトルへと作用する 委ねた…

スノーホワイト(詩)

こんこんとつのる想いを何と形容したらよいものか 切なくて切なくてすでに狂おしいほど充たされている。 雪 しめやかに音のない無心の雪は情を持たない 闇の密度の重みある凝縮と 降りつのる無垢な白さは矛盾せず谺(こだま)しあって 一つの感傷を 一つの真…

True CALLING(詩)

夏の夜のその奥ぶかい分け入った秘かな場所で 耳をすまして聴いている 聴いている それは思い出でなく古くなった魂である 存在の最も忘れられた片隅で眠る。 ⚓ みなもは蛍火の蛍光色の海である 緑色の濡れた光をたおやかな女性性の波がたたえる。 ⚓ 憎しみは…

白い刻印(詩)

その部屋もまた欠け落ちたピースの可憐なひとひらである そこで過ごした時間ごと思い出の物置の奥で朽ちゆく そこにあるのはあらかじめ失われるために立ちあらわれ通過したような枯れ葉いろの思い出ばかりだ 見落とした値うちも恐らくあるが忘れてしまっても…

凛(りん)詩

太陽は鴉のように墜落し藍色の夜陰(やいん)の中で凛々しいまでに澄んでいる わたしは澄んでいる 血管(ちすじ)の中に混じったものは懐かしい夕景と似て あわあわとおぼろに遠い忘れ去られた細胞である それは珠玉のように純真なもの わたしは澄んでいる …

戦火の切れ端(4)小品

写真は匂いを伝えないから当事者以外の知ることの出来るのはいわば出来事の表題のようなもの。あの場所にいて私はずっとポロポロ涙を流してたけど、それは悲劇に胸を痛めたためではありませんでした。余りにひどい悪臭で、匂いがひどく眼に沁みたのです。あ…

戦火の切れ端(3)小品

僕の殺した米兵は、自分が死ぬと悟った時に何か度肝を抜かれでもしたかのような仰天した顔をした。彼は恐らくそのために自分の守備を実は本当には穴だらけにしていたように思う。銃弾の四方八方を飛び交う紙一重の場所にあっても僕には弾丸が当たる景色がま…

戦火の切れ端(2)小品

僕らの隊がその村を横切った時、ある村人はまだいたいけな息子を僕たちにあずけようとしました。砲撃のとどろく音もじきにまぢかに迫ると思い、無学な彼はここよりも兵隊のそばに居させたほうが安全と考えたのです。彼はどうやら少し見落としていました。息…

戦火の切れ端(1)小品

ふいの驟雨(しゅうう)と誤解したのは間合いのずれのようなもののためです。爆撃のあってから、それは恐らく二十秒も経ってからパラパラと空から落ちてきたのでした。人の死ぬのに馴れ過ぎて失くしたものもあることでしょう。実際僕はおののくよりも、ホッ…

谺(こだま)詩

星と星との織り成したそれは奇跡であったろう 太陽を月の隠したつかのまの白昼の夜 たぶん数十年にいちど訪(おとな)う稀少価値の十数分間がある そこに彼女の悪夢はいまも忘られもせず息をひそめて蹲っているという 忘られもせず それも彼女の遺された足跡…

理性の眠りは怪物を育む(詩)

余りにも澄んで真澄の 歩みを止めた真空パックの現実である。 夏 それも真夏の好天の日の午前六時かその辺り 汀(みぎわ)には清新なつめたく触れる瞬間だけがある 大地は赤茶けた有史以前の孤独な大地 そして時計は 金の目覚まし時計はテーブルの上で蕾のよ…

南(詩)

みずからに逆らうことをやめ流れのままに混乱している。思うに、それは彼女を孤独にもしただろう。誰も彼女を知らなかったが、誰一人それに気づきはしないほど、そこには嘘が欠け落ちていたのだ。その場しのぎの真実がいつもそこには残り香として残されてい…

龍宮之遣(りゅうぐうのつかい)詩

光なく音もなくそこは余りに深くて無限大である 割れた古鏡がある ロココ趣味の着飾ったもので遠い時代のたぶん遺失物と想われる 深淵を映して見つめ 割れて破れたその面(おもて)にも内的な沈黙がある そこにほのめくように過って 奇っ怪にして神威をやど…