2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ライフ PART2(詩)

春の嵐の予感をはらむ真夜中の風である その予感は裏づけのない不確かな迷信と似たものだが 悪天候の前触れの浮き立つような軽やかな不安を胸に 奇妙にも快いその鼓動を抱いて少し見ていた 東京の風なのである 夜風を囲い養うものは東京の真夜中である それ…

帰郷先から(詩)

つめたく澄んだ蒼天のことば少ななひろがりを 街なみの人工物のかもす温度がやわらげている 蒼天の心は清らかに冷血である 家々の壁と屋根とはそこにことばを宿して見える ことばは声であるだろう そこには人の余韻のような影がほの見えている おれの心は冷…

ブラック・ダリア(詩)

淫らなものをほのめかすその唇のルージュの色をひき裂いたのは加虐性の情欲だろう 耳と耳とを繋いでひらくその高名な裂傷は だがこのひとに火の洗礼を 贖罪の通過儀礼を授け 聖性のきららなものをこのひとの円光として授けた ここに冒涜された純潔がある 踏…

薄暮(うすくれ)詩

わすれたはずの痛みさえ 密やかにしのび寄るのが分かる なぜと問うてみたとしたとて あまりに遠い日のことで あまりに早く諦めて あまりに早く沈黙を みずから拒む術をまなんだ つねに痛みを抱えてたのは ここで過ごした時間だけ あなたが少し懐かしいけど …

悪の表層的プロット(ジェイムズ・エルロイとアンダーワールドUSA三部作)短評

youtu.be ジェイムズ・エルロイ。その波瀾というか暗澹としたものに富んだ生い立ちは、余りにも有名なのでここでは敢えて省く。この人について書かれた文章には、ほぼ確実に、そのことが最初のほうに前置き的に書き記されているのである。 暗黒小説というジ…

家(詩)

しょんぼりとしなびた父は知らない人に違いなく 父はいまでもあの部屋の半分あいたドアの奥 影と埃のむしばむ場所で 戒めの法のほのめく威厳の背中をのぞかせている この家はあの人の家 あの人の心のもとに建てられた家である 足音をいつも殺して いつも居場…

パグ💙ラブ(随筆)

パグ。それはまず、いじけて小さくなった毛虫のような愛憐としてあらわれる。我々の愛するパグは、チワワのように無自覚な若干の圧のある犬の可憐さでこちらを見上げてなどはいない。むしろその後ろの何か隅っこを想わせる壁や柱と近めの場所で、うつむきが…

生命(詩)

春雨のとじた心が街をおかして陰らせている ほのめくものは慕わしい日のおぼろに霞む心象で おとめをやどす陰を持たないその顔は 血の色と その痛みある感情と そこに初めて嗅いだ匂いと融けてなにやら秘密めくのだ なぜ哀しいと感じたものか あの時おれの思…

OLD BABY(赤ちゃんプレイ私論)随筆

赤ちゃんプレイ。人類はすでに大分前からこれをおこなうほどには逸脱し、かつては所属していた自然界の野性のルールの統治下とは段々と距離を置き、或いは段々と距離を置かれながら、そことは確実に一線を画す独自路線の不自然な歩みをつづけている。我々は…

ソドム平日(詩)

あなたは迷い込んだ人生を持て余して立ち尽くす すたれゆく卑しい街は 酸性雨の輝く痛みをちりばめながら黒く荒んで 掠れた顔をあらわしながらなおも悪意を飼い馴らしている ここにも日々はあるだろう 場当たり的な日々の中では哀しみに追いつかれは寧ろしな…

肉体の悪魔(書評)

肉体の悪魔。原題とは少し異なる少し派手めの日本題を持つこの小ぶりな小説が好きだ。原題は確か「魔に憑かれて」。ラディゲの実体験に基づいた小説として知られているが、作家は体験をただそのままは滅多に語るものでないから、事実ではなく真実を、つまり…

追悼(詩)

月のない秘かな宵のひなびた道だ 茫と灯った電燈の孤独に浮かぶ片隅がある 給油ポンプの痛んだ鉄の心が蕾のように閉じ そばには白い陶器の面の巫女さんが華やいで 華やぐような紅白の流れる襞(ひだ)に包んだ膚を 匂やかにほのめかし 匂わすものを包み隠し…

道グローバル(随筆)

自分の恋愛遍歴など抽斗(ひきだし)に鍵をかけ大事にずっと忘れてあげていたいけど、ここにリアルな数字を示すなら、筆者の率は、日本人と外国人の率がほぼ同等の五分五分である。夜のちまたと親しんで過ごしてきたことの恩恵で、筆者はたぶん少し多めに出…

春風(しゅんぷう)詩

死んで腐った魚のように青じろい憂鬱である そこへ群がる菌類の繁殖力の恵み深きを、 その森かげはもの言わずはらわたの場所に飼うのだ 天狗茸(てんぐたけ) 紅天狗茸(べにてんぐたけ) 毒鶴茸(どくつるたけ) ほていしめじ。 恐らく首を吊ったのが腐って…

アウトレイジ(映画評)

さて。今さらながら「アウトレイジ」である。観たことのない人でも、どういう系譜の作品なのかはみんな知っているという点において、一つの象徴的イメージともなった作品だと思う。 「ぶち殺すぞ、ゴラァ!」 たけしさん自らの言い放つこの台詞は予告編でも…

受難(詩)

星月夜(ほしづきよ)の清らな心。 鈴の音の零れるように瞬くものと 濡れ光る満ちてあらわに浮かぶもの。 垂れ籠める藍染めのいくえもの柔らかな感触が、 冷たく澄んでそのひとの額と頬を慰めている。 それはこのひとの心に見合う凛としたもの。 柔らかなの…

臍(へそ)論

筆者は以前乳首について、無論無駄で無益でクソみたいなしょうもない男性の乳首のことでなく、そのそっぽを向いた佇まいにも夢想を宿す愛すべき女性の乳首のことについて少し語った。手短ではあったが少し語って、乳首への理解を少し、読者と共に深め、また…

丘(詩)

一つの丘を取るために どれだけの人が死んだと 彼らはみんな兵隊なので 少し値段の安い命を胸に仕舞っていたのです 死んだのは一万人を超える兵隊 父か息子か恋人か ほとんどは 誰かの慕う人であったと想われもして あの丘の頂で 旗を振るためみんな死んだの…

最後の誘惑(映画評)

映画好きですから勿論のことマーティン・スコセッシという監督が好きである。「タクシードライバー」「レイジング・ブル」「グッドフェローズ」が好きなことは勿論のこと、個人的には「ミーン・ストリート」がめちゃ大好きで好きな映画を十本挙げるならたぶ…

修行時代 🔜 遍歴時代(散文詩)

効率を求めるならばビールよりワインが堅い。 その頃彼は酒をもっぱら味でなく度数で選び効率的に酔っぱらっては夜のちまたをうろついていたのである。 赤ワインの渋みなど然して苦痛でない試練。ウイスキーを飲めばいいけどさすがにそれは割らないと強すぎ…

難民(詩)

汐留いろはに振られた晩は 大衆酒場に救いを求め 別な女を愛そうと足掻きもしたとおれは認める。 涙を流し忘れて沈んだままの眼と心には 全部虚ろに 何もかも全部虚ろに哀しく見えたものだから 彼女ばかりがなお貴いと自ら沼に嵌まりもしたさ。 近くで火事が…

「鉄男Ⅱ BODY HAMMER」支持(短評)

さて。鉄男Ⅱである。 カルト映画の名作「鉄男」について語る人は多い。しかし何故だかその人も「鉄男Ⅱ」のことは語らないのである。明らかな失敗作というわけでもなく、前作の焼き直し若しくは拡大版に過ぎないというものとも違う。では何故この作品はしばし…

バビロンにて(詩)

いつか世界は終わるけど 君とおれとの死ぬまでにその時を迎えられたら そう思わないか おかしなことをと君は笑ってだけど少しは理解している 君とおれとの死ぬまでに世界の終わりを迎えられたら おれの望みは彗星で赤い火炎や津波や地震ではない ふたり静か…

アウトロー(詩)

占領軍の四機のヘリのライトが交差して錯綜しつつ石畳の街路を照らす。 そこで動いているものは痩せ衰えた野良犬ばかり 宵の八時を廻ったからで人はみな表向き従順に奴らの言うことを聞いているのだ。 消火栓のそばに誰かの忘れ物がある。 赤い子供の靴の左…

粘着者(ストーカー被害後記)

昨日まで同性である男から、しかも年上のおっさんから執拗なストーカー行為を受けていた身の上として、その経験から学んだことをここに粗雑に纏めておこう。まず何よりも顕著であったのは、その人物の極端なまでの幼児性である。自分と他人を隔てる境界線を…

t i t s(乳首について)随筆

筆者のような自他ともに認める変態であっても乳首のことをそこまで深く考えたことはないのである。我々はなぜ乳首を吸うのだろう。無論筆者はノンケの輩なので男性の乳首に吸いつこうとは夢にも思わない。筆者の指しているものは、なぜ備わっているのかもよ…

エデン(詩)

青みを帯びた鉄と命のあいだの鉄で半植物の蠢く管が、 幾十本幾百本と ぬめぬめと絡み合いじゃれ合うように縺れ合い巨木に群れて覆い尽くした蔦の繁茂もさながらに、 その金属の痛みと熱で無垢な二人を抱いているのだ。 この二人にはすでに名前があるだろう…

ふらんす物語(書評)

永井荷風という人。 この人の見下すような斜の角度の眼差しは、勿論なにか青臭く余り大人と思えない。 老いてなおそうであった人のこと、二十代後半の作であるこの作品集は、当然ながらひねくれた若い感度に浸るのである。 しかしこの前の作とは明らかに趣を…

美徳の不幸(書評)

サド侯爵。 勿論、サディストという言葉の語源であり、既存の法や道徳を攻撃した自由思想家である。 しかしこの人は何か余りに偏っている。何故に既存の法や道徳を蹂躙するために毎度毎度の安定ぶりで女性を蹂躙する必要があるのだろう。何故いつも鞭で打っ…

オピウム銀河系(詩)

砂と岩場の惑星であり、 ここに栄えた文明の進捗具合は 反野生化を眼ざす地平の一つとやはり定めるならば、 太陽系の例の星より明らかに五千年は遅刻している。 蜂蜜色の膚を持つ美しくも頑是ない子供のような人々が、 半分裸で かなり欲望のまま 深くは何も…