三つの貝殻(詩)

悪魔としたのはカラオケだけだ

ほのかに陰るそこは飲み屋のカウンターの隅

「よお」

と恰(あたか)もおれと馴染みであるかのような顔と素振りで

年かさのキューバ人に化けてはいたが隠しきれない牙と気品があった

奴は言った。「博奕(ばくち)には手を出すな。愚行だ」

そうして奴はおれの隣で唄ったが曲は確かに〝オールド・ブラック・ジョー〟である

熱唱と言ってよかった

そして立ち去った 小銭の代わりに三つの貝殻を残して

店主は何も言わなかった。

 

天使としたのは沈黙だけだ

ほのかに陰るそこは飲み屋のカウンターの隅

奴は若いアメリカ人に化けていたがその膚は黒かった

隠しきれない品格がある 

そして瞳が海を宿して深かった

おれは言った。「おれは確かにゲイではない。だが、ゲイであっても構わない」

誰に向かって言ったわけでもなかった たぶん自分に向けて言ったのだ

奴は眉をピクリと動かした

そうしておれにそれを握らせ立ち去った

慎ましやかな三つの貝殻。

 

 

✳ 画像はフリー素材です。フリー絵画。ブリューゲルですね。すご。

パッと思いついてごく短時間で書けました。