なみだ(詩)

すべて部屋にはその部屋の硬度をしめす琴線がある

氷点の張りつめた締まったものも弛緩しきった半笑いのものもある

その部屋の情調は午後

陽ざしのつくる明暗が夕べ近くの午後を孕んで疲労感の陰りある情調を織り成していたが

琴線は弛まずに硝子を含むものをしめした

小学校のたぶん音楽室である

美しいくびれを纏うピアノのそばに

木と鉄パイプの心安げな子供のための椅子がある

どこか余計者の外れた色を帯びるのは黒板のあることで

その庶民すぎるとでもいうか

奥ゆきの浅いオーラと外観の損なっているものがあった

聴こえているものがある

哀しみよりも痛みをあらわして痛切なこの魂はしかし烈しい旋律ではない

何という曲だろう

奏でる人は初老の人で何故か知らない人である

演奏が終わると音は後ろの時間の中に散っていったが

痛みはしばしとどまって琴線の過敏な糸を張りつめたままにした。

 

初老の演奏家は恐らく少し誤解をしたと思われる

満足げに微笑みながら

その服の袖口で少年のなみだを拭いた。

 

 

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最近書いた詩の中では一番思い入れがあるかも。いまのところは。