鍵(詩)

夢遊病者の白い悪夢はどこかでドアと出くわしている。

眩いものに充たされたそこは彼女の夢想の小部屋。

何かしら赤がある。赤い小物か一冊の赤い本。

たぶんベッドもあるだろう。そこで眼ざめ、そしてそのことをすぐに忘れる。振り向けばベッドはそこに或いはあるし或いはない。

赤いものは揺らがない部屋の一つの必要事項。そうして窓はこの部屋の遺失した失くした鍵であるだろう。

それは景色を孕み持つから彼女の部屋にそれがないのだ。

白く眩い窓のない部屋。

たぶん彼女の部屋だけど、ここを出ようとすることに何か疑念を抱くでもない。

この部屋を出よう。必要なのはドアである。把手と蝶番(ちょうつがい)の壊れていない開閉可能な完璧なドア。

そして彼女はそれを見つけるのだ。

さっきまでなかったものを自らそう望んだから見つける。

そのドアは威圧的なものを匂わす鉄の扉でないだろう。むしろ家庭の体温と声の暗示を宿してもいる黄味を湛えた木のドアだ。

このドアは然るべき役目を果たす。

力も要らず簡単に悪夢の次の階梯(かいてい)を開示してくれるだろう。

そこにあるもの。

自転車とブランコのあるいつか昔の午後である。

ここで確かに誰かの流す血を見たが、聞こえたものは確かに彼女の声のようである。

凶器は車のバンパーの辺だろう。

赤い小物か本と似た色が咲くのを表の道か夢で見た。眩いものは、運が転べば太陽である。

だけど彼女はおかしくて声は悲鳴と何か違った。

失くした鍵はどこだろう?

そして眩い部屋がまたそこにある。

 

 

✳ 画像はフリー素材です。

量産期ですね、そういうモードに入っている。いつまで続くかは分からず。