身籠ったのはいと妖しげな一片の幻影である
何時ぞやの暮れ方の緋色の刻に孕んだもので
うら哀しい安普請(やすぶしん)の仮住まいの庭で孕んだ
先刻降った驟雨(しゅうう)の水が溜まっていたのである
覗けばそこにわたくしでなく別な景色が浮かんで見えた
或いは幻燈のように 或いは活動写真のように。
たぶん昔の吉原である
お座敷の褥(しとね)に侍る女の白い襦袢のかき乱れ色めく股が
ぬらぬらと黒光りする鰻(うなぎ)を産んで
また産んで
さらにまた産んで吐くのだ
鰻は健康にうねうね蠢いてしなを作って互いに絡み
女はオルガスムスの恍惚を顔にあらわし何か貴い
何か菩薩のおもかげを宿して映るのだ
そばに立つ洋装の男が一言言うが顔は見えない
〝この助平女が〟
以来この幻影はわたくしの夢魔となっておびやかし
しばしば褥に
恥のもたげる染みを作らす。
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変態チック!趣味作(笑)時間を置いて推敲したらなかなかの作品になると思う。