夢菩薩(ゆめぼさつ)詩

身籠ったのはいと妖しげな一片の幻影である

何時ぞやの暮れ方の緋色の刻に孕んだもので

うら哀しい安普請(やすぶしん)の仮住まいの庭で孕んだ

先刻降った驟雨(しゅうう)の水が溜まっていたのである

覗けばそこにわたくしでなく別な景色が浮かんで見えた

或いは幻燈のように 或いは活動写真のように。

 

 

たぶん昔の吉原である

お座敷の褥(しとね)に侍る女の白い襦袢のかき乱れ色めく股が

ぬらぬらと黒光りする鰻(うなぎ)を産んで

また産んで

さらにまた産んで吐くのだ

鰻は健康にうねうね蠢いてしなを作って互いに絡み

女はオルガスムスの恍惚を顔にあらわし何か貴い

何か菩薩のおもかげを宿して映るのだ

そばに立つ洋装の男が一言言うが顔は見えない

〝この助平女が〟

 

以来この幻影はわたくしの夢魔となっておびやかし

しばしば褥に

恥のもたげる染みを作らす。

 

 

✳ 画像はフリー素材です。

変態チック!趣味作(笑)時間を置いて推敲したらなかなかの作品になると思う。