戒厳令(詩)

軍服を美化したものは雪である。

それで鎧(よろ)った将校たちの年齢とそれに見合った意固地で従って真っ直ぐな精神である。

皇軍の軍人となることを彼らは望んだ。

夜明け前、

雪の積もった街は凍てつく痛んだものに漲って、

白さの醸す静けさは夜のなごりの色と溶け合っていた。

その時はそうでなければならず、

真剣な想いの中に狂信者を棲まわせていた若い彼らを担ぐ舞台は、

その時はそうでなければならず。

昭和初期の東京は今より貧しかったろう。

見た目には貧しくだから余分なものが少ない。

彼らの吐く息は白かったろう。

決起は白い吐息を連れて始まったことだろう。

深雪(みゆき)の中を軍服が或いは列を作って進み、

或いはそこに立ち上がる帝国主義の影をひらめかす。

弛みない情景である。

弛みなく締まったもので静かに充ちた情景である。

青年将校という言葉を血に染めたのは彼らの夢だ。

彼らのこの日したことは幾つもの顔を持つ。

この日彼らは

首相官邸を占拠した。

何名も殺害しかつて首相と呼ばれた人も殺した。

そこに見いだす色は勿論赤かその系統である。

しかし不思議なめまいがあって、

その赤色は肉体から流れずに、

掲揚台の竿先で風になびいているのです。

 

 

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この題材はまた扱うかも。余り満足はしてない感じで。